CASE STUDY事例紹介
東京都北区
学校法人順天学園 順天中学校・高等学校
ニュージーランドで
自ら探究する
持続可能な社会への道
中高一貫というスタイルを最大限に活かした独自の教育システムで、進学教育や福祉教育など、学び方と生き方を大切にするさまざまな教育活動に取り組んでいる順天中学校・高等学校。近年はスーパーグローバルハイスクール指定校として、国際教育においても目覚ましい成果を挙げています。そんな順天高等学校が2018年、ニュージーランド研修旅行で「海外SDGs研修」を採用しました。
生徒の課題発見・解決力を
刺激するプログラム
「英知をもって国際社会で活躍できる人材を育成する」という教育理念のもと、東京都北区のキャンパスで中高一貫教育を提供している順天中学校・高等学校。その起源は、幕末から明治期にかけて活躍した算学者の福田理軒が1834年に創立した順天堂塾にまでさかのぼることができます。現在は英語教育や国際教育にも注力しており、文部科学省からスーパーグローバルハイスクールにも指定されています。
「本学の教育理念を実践し、これからの社会を担う人材を育てていくためには、従来のような知識重視型の教育だけでは不足。近年は、生徒が自ら主体的・創造的に何かを学ぶ姿勢を身につけるための環境づくりを大切にしています」と片倉副校長は語ります。そして、キーワードとして挙げてくれたのが、創立者の福田理軒も行っていたという「探究学習」。普段の生活や授業のさまざまな面に興味をもち、何らかの疑問や課題を自ら発見して、仮説を立てて解決していこうとする学習スタイルです。
生徒のこうした気持ちを刺激し、育てていくための方法を日夜研究していたところに紹介されたのが「海外SDGs研修」によるニュージーランドの牧場見学でした。
片倉 敦 さん
順天高等学校 副校長
持続可能なウールをとおして
これからの社会を考える
順天高等学校では高校2年次に、国内外から選べる修学旅行や、語学研修・社会探究・科学研修といった目的を掲げての研修旅行を実施しています。この中でも、滞在期間の長さから人気があるのが、ニュージーランドでの短期留学。現地のクラスに組み込まれての授業や、ホストファミリーとの交流を通じて、語学研修をメインにさまざまな体験と学習ができるというものです。
本プログラムはこの日程の中に、制服という身近な衣服の原料であるウールの原産地訪問を組み込んで、環境問題やフェアトレード、持続的な経済活動といった視点まで広げていくきっかけにしようというもの。「まさに私たちが求めていた探究学習のチャンスそのもので、二つ返事で採用を決定しました」と片倉副校長。
実際に現地引率を担当した金子先生も「羊毛という、持続可能な素材をよく知ることは、サステナビリティを意識させるとてもいい機会になるのではないかと考えました。はじめての取り組みゆえ準備事項も多かったのですが、事前にウールの生産システムや素材の特徴などに関する興味深いレクチャーを行ってくれて、大きな期待をもって臨むことができました」と言います。
2018年1月のプログラム採用決定から打ち合わせを重ね、事前勉強会を経て、8月に行われた約3週間のニュージーランド研修旅行の中で、生徒34名が現地の牧場を1日見学することになりました。
金子 哲也 さん
順天高等学校 英語科主任教諭
生きた現場からでなければ
得られない発見や成長がある
短期留学先のクライストチャーチから、バスで約1時間半の距離にあるブロクストン牧場が、今回の訪問先。牧場経営は、ニュージーランドメリノカンパニーによる原産地認証システムの厳しい基準をクリアした、自然にも羊にも働く人にも優しい環境の中で行われています。
こうしたニュージーランド山岳地帯の気候は、夏は気温が摂氏35度、冬はマイナス20度とたいへん過酷です。だからこそ、そこで育った羊の毛には、季節ごとに羊の身体を守り、常に快適な状態を保つことができる複合的な機能が備わっているのです。
「事前レクチャーがあったとはいえ、ウールという素材やその生産にさほど興味を感じられなかった生徒がいたのも事実で、出発時はまだ生徒間に温度差がみられました」と金子先生。けれど、そんな生徒たちも現地の広大な牧場風景や、のびのびと生きる羊たちの姿や匂いを目の当たりにすると一気に興味津々になり、シープドッグ(牧羊犬)が羊を追う様子に目を見張ったり、プロによる毛刈りの見学を積極的に楽しんだりしました。
生徒からは「牧場は独特の匂いがして最初はびっくりしましたが、だんだん慣れて、こういう環境もあるんだと受け入れられるようになりました」「観光用ではなく、普段と同じように働いている現場を見学できたのは貴重な体験でした」「実は動物が苦手で、ちょっと尻込みしていたんですが、少しずつ触れ合ってみるうちに、犬や羊ともちょっと仲良くなれた気がします」といった感想が。語学面でも、普段接するアメリカ英語とは異なるアクセントや訛りから得られる刺激は大きく、現地の方との質疑応答や牧場主家族との楽しいランチタイムでは、自分からどんどん話しかけていく生徒の姿も見られるなど、期待以上に豊かな経験となったようです。
学びの内容と、実社会とのつながりが自然に感じられる
生徒たちは何か月も前から、マオリ族などの少数民族についてや、ニュージーランドの国鳥であるキウイ、マヌカハニー(現地産のハチミツ)についてなど、それぞれ多岐にわたる研究テーマを設定して準備を重ねてきました。これらの成果に加えてさらに、帰国後の生徒からは「羊や海外の自然を身近に経験してきたことで、動物も自分も同じ仲間だと感じられるようになったし、地理の授業も自分と世界をつなげて考えられるようになりました」「刈った後の羊の毛が、制服などの生地になる過程も知りたくなりました」といった、座学からだけでは得られない新たな姿勢も生まれてきたようです。
「生産現場にふれたことで、生徒が自分たちの制服を誇らしく感じる気持ちも高まってきたのを感じます。次回は生地工場見学なども検討してみたいですね。さらに実りの多い研修旅行ができるよう、事前研究や考察のサポート体制を整えていきます」と金子先生。片倉副校長も「やはり現場から学べることは数多いもの。生徒たちは今回、制服の原材料、川に例えれば一番上流までさかのぼったことで、これからどう流れていくのかにも興味が出てくるでしょうし、原材料から製品までの流れを知れば、世界のあり方や、どこかに無理な負荷をかけることのないサステナビリティという概念も理解しやすくなるでしょう。海外に比べると、日本は勉強と実社会の接点がまだ少ないと感じていますが、今回のプログラムは、そこを融合させていくきっかけのひとつとなりました。創造的な学力や主体性、協働性、国際対話力などにつながるこの活動は、来年以降も引き続き採り入れていきたいです」と、展望を語ってくれました。
冬も夏も快適な着心地
環境にも優しい
2016年にアップグレードされた順天高等学校の制服は「冬でも十分あたたかくてコートいらず。荷物が増えないので助かる」「夏も風通しがいいし、軽くて着やすい」と、生徒にも好評です。この制服では、「生徒たちのために、いちばん良い素材を使いたい」という要望から、「ZQ認証メリノウール」の生地が採用されました。
ZQ認証メリノウールとは、ウールの一大産地であり、環境保護政策の先進国でもあるニュージーランドで、(1)持続的な経済活動、(2)環境保全、(3)動物愛護を前提とした牧羊活動、という3点における厳格な第三者原産地認証システムをクリアした、高品質でサステナビリティにも優れたウール。どこで、どのような牧場によって作られたウールかを可視化するトレーサビリティシステムも確立されています。
人と社会、地球環境の未来まで考えて作られているZQ認証メリノウールを使用した制服は、言ってみれば「これからの持続可能な社会について学べるユニフォーム」なのです。