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ミライをつくるCompass日誌

子供たちがSDGsを自分ごととして考えるために「大森第六中学校」が挑んだ学びの大変革。

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「未来をつくるCompass日誌」第一弾は、平成23年にユネスコスクールに加盟し、持続可能な社会の担い手を育む教育(ESD)をいち早く取り入れた大田区立大森第六中学校です。
今回は現在校長を務める菅野哲郎先生と、ユネスコスクール加盟当初から中心となってSDGs教育の活動を推進されている柴崎裕子先生にお話を伺いました。

“災害”という持続不可能な状況が気づきのきっかけに

柴崎先生:もともとこの地域は教育熱心な親御さんが多く、本校も受験を重視した学びが中心でした。しかしそれだけいいのか?これでは子供たちの学びが深まらないのでは?という思いが教員たちの中に常にありました。そして折しも11年前の3月、東日本大震災という持続不可能な状況を目の当たりにすることとなったのです。このような世の中に子供たちがどうやって生きていくのか、持続可能な社会を担う人材育成をすべきだと確信。それがユネスコスクール加盟のきっかけでした。

教室の外に学びの場を見つけるアンテナ

柴崎先生:最初に始めたのはボランティア団体「農援隊」の発足です。洗足池のホタル復活プロジェクトや、東北での民泊・農業体験を通じて、人のため環境のために何ができるかを考え取り組む活動を実施。2021年度からは民泊から震災学習に形を変え、津波の被害に遭われた陸前高田の高校で被災の体験談を聞くことで“自分ごととして”防災を学ぶ機会を作っています。

あらゆる教科にSDGsを紐づけるという挑戦

柴崎先生:ユネスコスクールに加盟した当初は校外での特別活動という形でSDGsに取り組んできましたが、2015年に国連でSDGsが制定されたのをきっかけに、2017年ごろから各教科でもSDGsに紐づけた指導計画を立て、SDGs達成を意識づけたカリキュラムへ転換。同時にゴーヤグリーンカーテンの設置、大岡山駅前の花壇メンテナンスなど、課題を解決する具体的な取り組みも積極的に行っています。

菅野校長:私はこの学校に来て2年目ですが、赴任してすぐに生徒たちの学ぶ力と意欲的な姿勢を感じました。その力の源は子供たちが学ぶ目的を持っているからだと思うんです。学ぶ目的とはつまり、社会貢献する力を身につけること。そして本校がESD、SDGsという明確に示された「社会貢献」をいち早く取り上げてきた先見性が普段の学びにしっかり根づき、子供たちの中に「自分ごととして考える」素晴らしい力を育んでいると感じています。

アイデアを持ち寄り、意見し合える雰囲気づくり

柴崎先生:普段の授業にSDGsを盛り込むにあたって、最初の課題は各教科でどの単元に当てはまるかを考えることでした。そこで模造紙を貼ったホワイトボードを用意し、教員たちがリラックスして意見交換できる場を設けました。お茶でも飲みながらアイデアを貼っていけるようにしたんです。そうして生まれたのがSDGsカレンダー。1〜17番のゴールマグネットを作って各教室に貼り出し、この単元はこのSDGs達成に繋がるという意識を持って授業に取り組むようにしました。また先生同士で自分の授業への招待状を送り合い見学し合うことで、お互いに意見し、授業を工夫する環境が自然と構築。こうした積み重ねが授業のアップデートにつながっています。

答えの押し付けではなく、自由に考える問いかけを

柴崎先生:本校では特にエッセンシャル・クエスチョンを大切にしています。我々教師が一方的に「答えはこうじゃない?」と示すのではなく子供たちに考えさせる。これをエッセンシャル・クエスチョン(本質的な問い)と言います。これこそがESDの学びにとって非常に重要。その特徴を捉えているのが、ここ最近始めた新しい「道徳」です。こんなこともありかな?あんなこともありかな?こんな時はどうすればいいかな?といった疑問や戸惑いを残し、教員が答えを押し付けない道徳の授業です。

菅野校長:昔から道徳の授業では「中心発問」と言って、その授業の狙いに迫る問いを非常に大切にしています。それが各教科でも生かしていけるとしたら、とても良い取り組みですよね。

SDGs17に次ぐ、18番目を考えてみる

柴崎先生:本校の3年生は、受験が終わった後の2週間で、SDGsの授業でやってきたことを総まとめする卒業制作があります。これまで学んできたSDGs 17の目標を振り返り、何が欠けているか?ということを話し合い、各クラスで18番目を考えて学年集会でプレゼンするというものです。たとえば3年前の卒業生は、その頃頻繁にニュースになっていた家庭内暴力について考えたクラスがあり「なぜ親は子供を虐待するのか?」というプレゼンから「すべての人に愛を」という18番が生まれました。2年前は19番目の「夢を実現できる社会」、コロナ禍で一年空いてしまいましたが、2022年は20番目の「個性を認め合える社会」と、毎年自分たちが考えたSDGs実現のためにすべきことを横断幕に寄せ書きした卒業制作が校内に飾られています。

これからESDに取り組む教育関係者の皆さんへ

菅野校長:まずは、生徒と一緒に課題をしっかり知ることが大切ですね。本校ではユネスコスクールのネットワークを通じて専門家の方を学校に招き、直接お話を聞く機会を作っています。その次に課題に対して自分は何ができるかを考えさせる。本校では今、東京都市大学の助教授である森朋子先生が考案された新しい学びのプログラムを実験的に行っています。授業に取り組む前段階で、課題に対して自分ができること、例えばエコバッグを使うとか、食べ残しをしないといったことを書き出します。そして授業の中で、より多くの人を巻き込んでできることは何か(シビックアクション)を考え、次のステップでは実際に活動するということを目標にして取り組んでいます。もちろん教員にとっても初めての取り組みですから、誰も教え方の正解を知りません。生徒と一緒に考える、方向性を持ってリードしていくというスタンスで十分ではないでしょうか。

柴崎先生:ユネスコスクールの初めての研修会に参加した時、私が自分のビジョンを明確に書けずモヤモヤしていると、ESDを専門としている先生から「その戸惑い、答えがない問いこそがESDだ」と言われました。その時は正直、釈然としない気持ちでした。でも今は、正解のない問いを考えることにワクワクしています。「答えなんか出さなくてもいい、考えること、道を探ることが目的」という授業に、本校の生徒たちが生き生きと取り組んでいる。これこそが答えと言えるかもしれません。私たちのワクワクが子供たちに伝わっている。そう強く実感しています。

POINT

生きた体験から考えさせる機会づくり

大森第六中学校では、洗足池のホタル自生復活の他にも、大岡山駅前花壇のメンテナンスや、地域の方と協力した防災活動など、授業以外での取り組みを多数実施。ESDを自分ごととして考え、人とのつながりでより大きな取り組みが可能になることを学んでいます。

各教科をSDGsに紐づける思い切った授業改善

各教科にSDGsを盛り込みましょうと言っても、教員それぞれの工夫だけでうまくいくものではありません。大森第六中学校ではESDを通じて子供たちに身につけさせたい力を3つに分類した分科会を実施。実験授業を行って、その度に分析・改善を重ねることで、少しずつアップデートしています。

考える楽しさを知れば、生徒は自ら行動する

大森第六中学校の生徒たちは、普段の授業内でも解決方法がひとつでないことを学んだり、周囲とのコミュニケーションから相手を尊重し、よりよい解決を導く習慣を身につけています。考えることが当たり前で、それが持続可能な社会につながることを生徒自身が実感できれば、ESDは大成功と言えるのではないでしょうか。

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