LOADING

制服 × ESDのトビラ

教育現場の考え方も変えた。「全ての子どもたちが快適に生活できる」福岡市統一型標準服リニューアル

Facebook Twitter LINE CLICK SHARE

近年、自治体単位で中学校の学生服(福岡市では標準服と呼ぶ)を統一する動きが活発化しています。地域への誇りや愛着、つまりシビックプライドを醸成できることや、自治体内で転校した際に学生服を買い替える必要がないといった、様々なメリットへの期待によるものです。統一化の動きの皮切りとなったのは、2020年より導入した福岡市と北九州市です。福岡市では、これまでほぼ全ての市立中学校で詰襟学生服とセーラー服を着用していましたが、多様性に対応しやすいブレザーの学生服へとリニューアルしました。今回は、学生服のリニューアルを当時福岡市教育委員会の事務局として担当した福岡市立友泉中学校の宇都宮校長と、現在福岡市教育委員会指導部として中学校教育に係る指導助言を行っている堤主事に、リニューアルの裏側や教育現場での反応、子どもたちの変化について、お話いただきました。

学生服は、よりよいものではなく、子どもたちにとって最適なものでなければならない

宇都宮校長:福岡市では60~70年近く、兄弟や親戚間でのお譲りなど経済面を考慮し、市立中学校の学生服を詰襟学生服とセーラー服としてきました。2017年に、学生服も多様性に対応できるようにしたほうがよいのでは、という声が上がり、リニューアルの検討が始まりました。そこで、最初に行ったのは子どもたちとその保護者、約16,000人への実態調査です。性的マイノリティへの配慮を求める声だけではなく、女子生徒から着替えにくさや防寒性の低さといった機能性の面で、セーラー服を変えてほしいという声が多く挙がったのは印象的でした。そういった生の声を知り、リニューアルすることが決定しました。学生服のリニューアルは、これから何十年にもわたって影響を与えるものです。よりよいものではなく、子どもたちにとって「最適」な学生服にすることが私たちの役目。これは、確固たる信念を持ってやらないといけないと強く思いました。

変えるところと変えないところの線引きの重要性

宇都宮校長:実態調査を行った際、保護者から多く挙がったのは、リニューアルをしてもこれまで同程度の価格で販売してほしいという声でした。もともと経済面を考慮して始まった学生服の統一型。同等の価格帯の学生服を準備する一方で、より高品質・高機能を求めるニーズにも応える準備もしました。変えるべきところと変えないところの線引きはしっかりしないといけません。リニューアルに向けて、変えないところとして他に挙がったのは、学生服の販売店です。リニューアル後も従来の販売店で購入できるようにすることは、生徒・保護者の安心感につながるんじゃないかなと考えました。何より地域に根付いた販売店が今後も変わらず子どもたちの成長を見守っていけるよう、残していきたいという想いもありました。アパレルメーカーを選定する上でも、流通経路は極力これまでと変えずに行いたいことと、子どもたち誰もが快適に学校生活を送ることができる学生服かどうかを基準にしました。また、販売店に対してはリニューアルの1年半以上前から告知することで従来品の在庫調整をしてもらう期間を作るようにしました。

教育現場の考え方も変えた、「誰一人取り残さない」学生服リニューアルの進め方

宇都宮校長:お声がけしたアパレルメーカーからは、形だけではなく、着心地や耐久性も含めてサンプルをご提案いただきました。子どもたちや保護者、地域の皆さんに実際にサンプルを見たり触ったりしてほしいと思い、市内の各エリアで展示会を開催。そこで出た意見をもとに、学生服を決定しました。展示会を行ったのは、リニューアルの認知と、市としてこういうことを考えているから、一緒に考えてみませんか、と問いかけるじゃないですけど、伝える手段の一つになるかなと思ったからです。また、詰襟学生服とセーラー服は長い歴史のある学生服です。今の子どもたちと保護者だけではなく、地域の人たちにとっても関心のあることだったので、対象に地域の人たちも入れました。自分たちがこれまで着てきた学生服が変わるんですから、地域の人たちの想いや意見もしっかり汲み取らないといけないですよね。

堤主事:私は当時、中学校の教員として生徒指導を担当していましたが、今思うと、この展示会の開催を機に、本当の意味で子どもたちが主役になる時代が来たんだなと感じました。学校内で何かを決定するとき、これまでだったらあえて子どもたちにアンケートを取ることは行ってきませんでした。少数ではあると思いますが、奇抜な意見が出たときの対応の仕方はどうするかとか、学校側が子どもたちの視点に立って検討した方が安全だよねとか、どうしてもトラブルを未然に防ぐ観点で考えてしまうんですよね。でも、展示会で子どもたちがどんな学生服がいいか、自分ごととして考えている姿を見て、私を含め多くの先生方の意識が変わり、子どもたちの意見や考えを聞く機会が増えました。そんな先生方の姿を見て、子どもたちも自分の意見を持つようになり、いい連鎖が少しずつ広がっていきました。

強い信念と多くの関係者の声を反映したリニューアル学生服の導入にあたって

宇都宮校長:多くの方々の想いや意見から、決定したリニューアル学生服ですが、各校への導入は強制ではなく任意でした。学生服が変わるということは校則や生徒指導要領も変わるため、現場でも様々な負荷が発生します。それでも教育委員会としては「誰一人取り残さない」最適な学生服を導入してもらうため、導入の有無を決定する各校の校長には、どういった経緯や想いからリニューアルしているのかだけではなく、導入することで生じる変更点などをお伝えしました。その結果、69校中65校で採用されました。これまでは、教育委員会や学校に学生服を変えてほしいという声が、毎年わずかながらも届いていましたが、リニューアル後はそういった声は届いていないので、子どもたちには快適に、保護者や地域の人たちには受け入れてもらっているんじゃないかなと思います。子どもたちと保護者だけではなく、地域の人たちや販売店・・・といった多くの関係各所に対する私たちの想いを汲み取り、アパレルメーカーへつなぐ懸け橋的な立場を担ってくれたり、細かいスケジュール管理を行ってくれたりしたニッケには大変感謝しています。

堤主事:今回の学生服リニューアルによって、詰襟学生服やセーラー服からブレザーへの変更だけでなく、ボトムスを自由に選択できるようにしました。そうすることで、自分らしさや宗教的規範などに寛容に対応できるようになった点も、誰もが快適に学校生活を送ることに寄与しているのではないかと考えます。また、ネクタイ、リボンには市の伝統工芸品・博多織が受け継ぐ「献上柄」を施すなど、郷土の歴史を感じられるものとしています。市が認証した製品に「標準マーク」を付けることで、どの販売店でどのアパレルメーカーのものを購入しても高品質な学生服を着られるようにしました。

学生服を通して、子どもたちに知ってほしいこと

宇都宮校長:ブレザーになったことで、よりパブリックとプライベートの区別をつけられるようになってほしいと願っています。現在、私が校長を務める福岡市立友泉中学校の子どもたちには、始業式や終業式などでは上着を着用するように伝えています。最近は、子どもたちも自然と区別がつくようになっているようで、先日生徒会の子どもたちと近隣の小学校へ向かう際に、私たちが何を言わずとも上着を着ていて、フォーマルへの意識が根付いていて、嬉しかったです。

堤主事:学生服はこれまでも、一体感や連帯感の涵養し、愛校心や地域に対する愛着を醸成する役割を果たしてきました。今後も変わらず、学生服を通して育んでもらいたいです。また、福岡市では、各学校に校則検討委員会を設置しています。子どもたち自身が、学生服の着こなし方などの校則の見直しに主体的に参画し、実際にいくつかの校則が見直されました。例えば、頭髪や学生服に関する規定を性別によって分けることは、市立中学校全校で廃止となっています。

宇都宮校長:学生服や校則を通じて社会について考え、つながるきっかけとなってほしいですし、学生服の在り方を子どもたちと一緒に考えていくことで、私たち自身も社会の機微を柔軟に受け取りながら、時代にあった学生服とは何か常に考えていきたいです。

POINT

子どもたちの意見を聞くことは自分ごと化のきっかけに

今回の統一型標準服のリニューアルは、福岡市内の長い歴史だけではなく、教育現場においてもターニングポイントとなりました。リスクもありますが、子どもたちにどうしたいか意見を聞いてみましょう。そうすることで、子どもたちが物事を自分ごと化して捉えるきっかけとなります。

学生服=子どもたちや地域の人たちのシビックプライドを育むもの

学生服は、学校や保護者、子どもたちだけではなく、地域の人たちにとっても関心が高いもの。地域への誇りや愛着を感じられる仕掛けを施すことに加え、地域の人たちを検討に巻き込むことで地域からも愛される学生服となります。

今こそ校則のあり方を考える

子どもたちと一緒に校則のあり方を考えることは、社会とのつながりや多様性を考えるきっかけになります。今こそ校則のあり方を共に考えてみてはいかがでしょうか?

本ウェブサイトでは、サービスの品質維持・向上を目的として、Cookieを使用しています。
個人情報の取り扱いに関してはプライバシーポリシーをご確認ください。